シャルル・フーリエ『産業的協同社会的新世界』読書メモ(3)余談
しぶさわです。
いきなりですが、今回はこんな画像を紹介します。
(↑『世界の名著42』の巻末より)
ちょっと見切れてますが、うまいことコピーできなかったので許してください。
説明すると、コレはフーリエが1808年、彼が36歳にして匿名で出した『四運動の理論』(正式には『四運動および一般的運命の理論』)の第3版(1846年)に掲載された図です(日本語訳は田中正人氏による)。坂本慶一氏によれば、この図は人間社会ならびに宇宙の万物が統一と調和の方向を辿ることを表しているもので、当時のフーリエは、人類がまだ図中の第一局面のなかばを過ぎただけに過ぎないと考えていたらしい。そして、人類はやがて壊乱と混沌を脱して、上昇的調和(第二局面)の時代に移行する。しかしさしあたり、人類は第一局面の8つの時代を経過しなければならないのだという。それはつまり、
- 産業発生前期
(K)無人の混沌状態
(1)原始時代、いわゆるエデン
(2)野蛮時代または無気力 - 分裂・虚偽・矛盾の産業期
(3)家長時代、中規模産業
(4)未開時代、中規模産業
(5)文明時代、大規模産業 - 協同社会的・真実的・魅力的産業期
(6)保証主義時代、半協同社会
(7)連合主義時代、単純協同社会
(8)調和主義時代、複合協同社会
の8つの時代だ。そろそろ読者の頭がこんがらがってきたことだろう。大丈夫、私もこんがらがっている。とりあえず、Kとはフーリエがあいまいな時代を示す場合に用いる記号らしく、これまで「産業的〜」をお読みになった方なら、当時のフランスは(5)の時代に位置付けられるということが分かるだろう(フーリエが文明時代を敵視してることからも推測がつく)。したがって、フーリエは来るべき協同社会的・真実的・魅力的産業期を迎えるために、ファランジュを建設しようとしていたことが分かるのだ!
もういい加減疲れてきたので、息抜きに「じゃあ実際のところファランジュってどんな社会なの?」と思われる読者もいることだろうから、ファランジュの設計について少し触れてみよう(今回はもう本文に触れるのをここで断念した)。坂本慶一氏によると、ファランジュとはもともと古代マケドニア軍の方陣ファランクスからとった名前であり、そこは最小400人、最大2000人、平均1620人の老若男女がいて、一人当たり一ヘクタールの農地を持った、生産と消費にわたる生活協同体であるという。そしてファランジュの住民は、ファランステールと呼ばれる広大な共同宿舎で生活するのだという(今でいうシェアハウスみたいなもの?)。ファランジュについてはわかった(?)ので、今度はファランステールについて見てみよう。ちなみにファランジュは「住民の12種の情念がことごとく満足されるよう、生産と消費の全般にわたるこまかい配慮がなされている」(P.77)らしいのだがもう知らん。
(↑P.559より)
次にファランステールについて。まず、ファランステールは4階建てで、鳥が翼を広げたような形をしている。内部は冷暖房完備の快適な居間や寝室、共同の食堂、娯楽室、応接室、集会室などが完備され、中庭には多くの樹木や噴水、池、花壇などが設けられている。ファランステールの両側には、地下道で結ばれた教会、情念取引所(労働や娯楽のための寄合いを仲介する場所らしい)、劇場、郵便局などの公共施設が配置されており、またファランステールの前には、広場を挟んで農業経営上の建物が整然と配置されているのだという(以上まで、「ユートピア社会主義の思想家たち」『世界の名著42』中公バックス,P.77参照)。
余談だが、フーリエの実際には作れなかったファランステールと、フーリエに影響を受け(てしまっ)たジャン=バチスト・アンドレ・ゴダン(1817-1888)が実際に作ってしまったファミリステールという建物の比較を紹介したサイトがある。なぜ実際に作ったし。
https://www.slideshare.net/11N2095/2012a411n2095
要約すると、ゴダンは1842年にフーリエの勉強を始め、実際にファランステールを建設しようとしたらしいが、フーリエが考えた農業を基調とした協同体では今の時代に合わないからと、工業を中心にした協同体を想定し、さらに複雑すぎるフーリエの共同生活の関係を修正し、家族中心の(だからこそファミリステールという名前になったのだろうが)連携を意識して建設したとのこと。そしてファミリステールは、19世紀に同じような社会主義者たちが実験した建築の中では最も成功した例らしい。約900人の労働者とその家族の約1200人をうまいこと納めていたとか。しかもフーリエの理念を放棄したわけではなく、貧富による部屋区分が起こらないように部屋割りが工夫されていたりと、ちゃんとした実業家が真面目に作ればユートピアは実現するのかもしれない……。
ちなみにゴダンは1858年からおよそ20年かけて、フランスから北東に200km離れたギーズという都市でファミリステールの建設を行った(参照:白承冠、2010、「ゴダンのファミリステールのオリジナリティとその建築・都市史的特性」日本建築学会計画系論文集 第75巻、https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/75/654/75_654_2039/_pdf)ので、やはり時間はかかるみたいだ。
さて、ファミリステールの話もそこそこに(面白かったのでつい調べてしまった)、本題に……は戻らずに、ファランステールの1日を紹介して、今回は終了としよう(さすがに疲れた)。
■ファランジュでのせいかつ■
〜六月のリュカ(貧民)の日課〜
3:30 起床、準備
4:00 厩舎集団での就業(セアンス)
5:00 庭園師集団での就業
7:00 朝食
7:30 草刈人集団での就業
9:30 天幕のもとでの野菜栽培者集団での就業
11:00 牛小屋系列での就業
13:00 昼飯
14:00 森系列での就業
16:00 製造業(マニファクチュール)集団での就業
18:00 灌漑系列での就業
20:00 情念取引所(ブールス)へ
20:30 夕食
21:00 楽しい交わり
22:00 就寝
「うげえ…なんて細かいんだ。寝る時間全然ねえじゃねえか!」って思ったそこのアナタ、さては調和人ではないな?貧富の差があっても、ファランジュに住まえば貧富の差は関係なく調和人として労働する、しかも魅力的で快楽を伴う労働をするのだ。そして「調和人たちはごくわずかしか眠らない」(P.503)のだ。細かな就業の変化、および巧みな健康法が、彼らが労働で疲れ切ったりなんかしない習慣を身につけさせる!では次に金持ちのスケジュールを見てみようではないか。
■ファランジュでのせいかつ part2■
〜夏のモンドール(金持ち)の日課〜
午後10時半から午前3時まで睡眠
3:30 起床、身支度
4:00 中庭で朝礼式、前夜の報告(chronique de nuit)
4:30 起き抜けの食事 délité つまり、産業パレードへと続く第一回目の食事
5:30 狩猟集団での就業
7:00 魚釣集団での就業
8:00 朝食、おしゃべり
9:00 天幕下の耕作集団での就業
10:00 ミサへの出席
10:30 雉子飼育場集団での就業
11:30 図書館での就業
13:00 昼飯
14:30 冷室集団での就業
16:00 外国産植物集団での就業
17:00 養魚池集団での就業
18:00 田園での軽食
18:30 メリノ羊集団での就業
20:00 情念取引所へ
21:00 夕食、つまり第五回目の食事
21:30 中庭での美術、演奏会、舞踏、演劇、歓迎会
22:30 就寝
……ここまで書いてものすごく疲れた。なんでだろう、ものすごく疲れた(2回目)。ほぼ日刊みたいになってるけど、しばらく更新頻度は下がります、っていうか下げます(死にそう)。誰か私が狂いそうになったらビンタして起こしてください……。
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